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名古屋地方裁判所 昭和61年(行ウ)3号 判決 1991年10月04日

尾西市篭屋二丁目六の四〇番地

原告

桑山政春

右訴訟代理人弁護士

鈴木泉

一宮市栄四丁目五番七号

被告

一宮税務署長 石川茂雄

右指定代理人

佐々木知子

深谷幸市

石川唯司

川原雅治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和五九年九月二五日付でした原告の昭和五六年分及び昭和五七年分の所得税の各更正処分のうち、納付すべき税額が、昭和五六年分について二六万九六〇〇円を、昭和五七年分について三八万五八〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件各更正に至る経緯等

原告は、繊維受託加工業を営むいわゆる白色申告者であるところ、昭和五六年分及び昭和五七年分(以下「本件各年分」という。)の所得税について、原告のした確定申告、これに対する被告の各更正(以下、右各更正を「本件各更正」という。)及び各過少申告加算税の賦課決定並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別表1記載のとおりである。

2  本件処分の違法事由

被告がした本件各更正のうち、昭和五六年分につき総所得金額三三九万六六五七円、昭和五七年分につき総所得金額四六五万八四一五円を超える各部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したもので違法である。

3  よって、原告は、被告に対し、本件各更正のうち、納付すべき所得税額が昭和五六年分につき二六万九六〇〇円、昭和五七年分につき三八万五八〇〇円を超える各部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張

原告の本件各年分の総所得金額は、次のとおり、昭和五六年について七〇七万二五六一円、昭和五七年について八六六万〇三八一円であるから、いずれもその範囲内でされた本件各更正に違法はない。

なお、原告の本件各年分の所得は事業所得のみであるので、右事業所得が総所得金額となる。

1  推計の必要性

被告の係官は、原告に対する本件各年分及び昭和五八年分の所得調査のため、昭和五九年三月二七日から同年五月一六日までの間に合計三回にわたり原告宅へ臨場して税務調査への協力を要請したが、原告はその調査に全く応じなかった。

このため、被告は、原告の本件各年分の事業所得の金額をいわゆる実額により算出することができなかったので、やむを得ず推計の方法により算出したものである。

2  昭和五六年分の総所得金額

原告の昭和五六年分の総所得金額は七〇七万二五六一円、その計算内訳は別表2の「被告主張」欄記載のとおりであり、その算出根拠は以下のとおりである。

(一) 総収入金額 一七〇万一一三五円

原告は、株式会社ブルーファイン等のいわゆる親機から繊維加工を受託すると、自己の工場で生産するほか、一部を他業者に外注して生産させ、それらを親機に納入していた。そこで、原告の右事業所得にかかる総収入金額は、次のとおり(1)ないし(3)により算出した金額の合計額である。

(1) 自己生産分にかかる収入金額 九〇四万五八二七円

自己生産分にかかる収入金額は、原告の動力使用電力量一万四六四二キロワットを基礎として、これに同業者収入金額六一七八円(同業者の動力使用電力量一〇キロワット当たりの収入金額であり、別紙1記載の基準をすべて充たす同業者を抽出した上、別表3の1記載のとおり算出したもの。)を乗じて、次の算式により算出したものである。

(原告の動力使用電力量)(同業者収入金額)

一万四六四二キロワット×六一七八円÷一〇=九〇四万五八二七円

(2) 外注先生産分にかかる収入金額 七九八万三八〇八円

外注先生産分にかかる収入金額は、原告が外注先へ支払った外注工賃の額(後記(三)(3))を基礎として、これに外注先生産分の利益割合一一八・六パーセントを乗じて、次の算式により算出したものである。

(外注工賃) (外注先生産分の利益割合)

六七三万一七一〇円×一一八・六÷一〇〇=七九八万三八〇八円

なお、右の利益割合一一八・六パーセントは、親機であるブルーファインとの昭和五六年中の取引のうち、ブルーファインからの受託品と外注先へ委託した委託品の品目が合致したものを抽出してそれぞれの金額を合計し、受託品金額の合計額七二四万八二五五円を委託品金額の合計額六一一万二六二四円で除することにより算出したものである。

(3) 綜絖差シ代金 四万一五〇〇円

袴田毛織こと袴田喜久治からの綜絖差シ代金である。

(二) 一般経費 二七一万九四三一円

一般経費の額は、前記(一)の総収入金額を基礎として、これに原告の昭和五七年分の総収入金額一九〇五万三四三〇円(後記3(一))に対する一般経費の額三〇三万六〇四九円(後記3(二))の割合〇・一五九三(以下「本人比率」という。)を適用して、次の算式により算出したものである。

(総収入金額) (本人比率)

一七〇七万一一三五円×〇・一五九三-二七一万九四三一円

(三) 特別経費 六八七万九一四三円

特別経費の額の内訳は、次のとおりである。

(1) 減価償却費 二万二五三八円

減価償却費の額は、次のア及びイの合計額である。

ア 昭和三九年二月取得の工場建物 四五三八円

原告が昭和三九年二月に取得した工場建物にかかる減価償却費の額は、別表6の1記載のとおり算出される。すなわち、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一「機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表」(以下「耐用年数表」という。)によって種類「建物」、構造又は用途「木造又は合成樹脂のもの」、細目「工場(作業場を含む。)用又は倉庫用のもの・その他のもの」についての耐用年数は「一六年」とされていることから、右工場建物の償却期間は既に昭和五五年一月をもって経過しているが、所得税法施行令一三四条一項の規定により減価償却費の累計額がその資産の取得価額の九五パーセントに達するまでは減価償却ができることとされているので、この規定を適用し、減価償却費の額が算出される。

イ 昭和四六年七月取得の工場建物 一万八〇〇〇円

原告が昭和四六年七月に取得した工場建物にかかる減価償却費の額は、耐用年数表の種類「建物」、構造又は用途「簡易建物」、細目「木製主要柱が十センチメートル角以下のもので、土居ぶき、杉皮ぶき、ルーフィングぶき又はトタンぶきのもの」についての耐用年数「一〇年」として、別表6の2記載のとおり算出される。

(2) 借入金利子 一二万四八九五円

原告が、昭和五六年中に十六銀行尾西支店に支払った借入金利子の額である。

(3) 外注工賃 六七三万一七一〇円

外注工賃の額は、次のアないしウの合計である。

ア 渡辺毛織(渡辺辰郎) 三四二万五四四〇円

イ 袴田毛織(袴田喜久治) 二一八万九二七〇円

ウ 森部毛織(森部四郎) 一一一万七〇〇〇円

(四) 事業専従者控除額 四〇万円

3  昭和五七年分の総所得金額

原告の昭和五七年分の総所得金額は八六六万〇三八一円、その計算内訳は別表2の「被告主張」欄記載のとおりであり、その算出根拠は以下のとおりである。

(一) 総収入金額 一九〇五万三四三〇円

原告の事業所得にかかる総収入金額は、昭和五六年分(前記2(一))と同様に、次のとおり(1)ないし(3)により算出した金額の合計額である。

(1) 自己生産分にかかる収入金額 一一一四万八七四四円

自己生産分にかかる収入金額は、昭和五六年(前記2(一)(1))と同様の方法により、原告の動力使用電力量一万七四八〇キロワットを基礎として、これに同業者収入金額六三七八円(同業者の動力使用電力量一〇キロワット当たりの収入金額であり、別紙1記載の基準をすべて充たす同業者を抽出した上、別表3の2記載のとおり算出したもの。)を乗じて、次の算式により算出したものである。

(原告の動力使用電力量)(同業者収入金額)

一万七四八〇キロワット×六三七八円÷一〇=一一一四万八七四四円

(2) 外注先生産分にかかる収入金額 七六八万九一三〇円

外注先生産分にかかる収入金額についても、昭和五六年分(前記2(一)(2))と同様の方法により、原告の支払った外注工賃の額六五二万一七三九円(後記(三)(3))を基礎として、これに利益割合一一七・九パーセントを乗じて、次の算式により算出したものである。

(外注工賃) (外注先生産の利益割合)

六五二万一七三九円×一一七・九÷一〇〇=七六八万九一三〇円

なお、右利益割合一一七・九パーセントは、親機である鵜飼毛織との昭和五八年中の取引について受託品と委託品の品目が合致したものを抽出し(昭和五七年中の取引については合致したものを抽出することができなかった。)、受託品の金額一二四万九一七五円を委託品の金額一一六万三八一四円で除して求めた収入割合一〇七・三パーセント及び昭和五六年分のブルーファインとの取引における利益割合(前記2(一)(2)で算出したもの)を基礎として、別表4記載のとおり、加重平均により算出したものである。

(3) その他 二一万五五五六円

次のアないしウの合計である。

ア 袴田毛織からの綜絖差シ代金 一万二七〇〇円

イ 株式会社フジヨシからのP・Pコーン売却代金 一三万七八五六円

ウ ハシマ機料株式会社からのスクラップ代金 六万五〇〇〇円

(二) 一般経費 三〇三万六〇四九円

原告の事業所得にかかる一般経費の額は、次の(1)ないし(9)の合計である。

(1) 公租公課 四二万二一八〇円

(2) 光熱費 六一万二三九一円

(3) 接待交際費 二四万〇六一三円

(4) 損害保険料 七万六三六〇円

(5) 修繕費 二八万四六一〇円

(6) 消耗品費 六二万〇七二五円

(7) 通信費 六万六二六〇円

(8) 建物以外の減価償却費(別表5記載のとおり) 六一万一九五〇円

なお、原告は、別表5記載の昭和五七年五月に事業の用に供した織機二台について、その購入の際に運送代金四万六〇〇〇円を支払っているので、右運送代金を取得代金に加算した。

(9) 雑費 一〇万〇九六〇円

(三) 特別経費 六九五万七〇〇〇円

特別経費の額の内訳は、次のとおりである。

(1) 減価償却費 三〇万八三一二円

減価償却費の額は、次のアとイの合計額である。

ア 昭和四六年七月取得の工場建物 一〇〇〇円

原告が昭和四六年七月に取得した前記2(三)(1)イの工場建物は、その耐用年数が一〇年とされていることから、その償却期間は既に昭和五六年六月をもって経過しているが、所得税法施行令一三四条一項の規定により減価償却費の累計額がその資産の取得価額の九五パーセントに達するまでは減価償却ができることとされているので、別表6の3記載のとおり、算出したものである。

イ 昭和五七年八月取得の工場建物 三〇万七三一二円

原告が昭和五七年八月に取得した工場にかかる減価償却費の額は、耐用年数表の種類「建物」、構造又は用途「金属造のもの(骨格材の肉厚が三ミリメートル以下のものに限る)」、細目「工場(作業場を含む。)用又は倉庫用のもの・その他のもの」についての耐用年数「一八年」として、別表6の4記載のとおり、算出したものである。

(2) 借入金利子 八万九四四九円

原告が昭和五七年中に十六銀行尾西支店に支払った借入金利子の額である。

(3) 外注工賃 六五二万一七三九円

原告の事業所得にかかる外注工賃の額は、次のアないしウの合計額である。

ア 渡辺毛織(渡辺辰郎) 四一九万三九八〇円

イ 袴田毛織(袴田喜久治) 一七〇万七一三〇円

ウ 茶鉄毛織合資会社 六二万〇六二九円

(4) 建物除却損 三万七五〇〇円

原告が昭和三九年二月に取得した前記2(三)(1)アの工場建物(耐用年数一六年)は、昭和五五年一月に残存耐用年数が満了しており、これを昭和五七年五月に除却しているので、その除却損を次のとおり算出したものである。

(取得価額)

七五万円-(七五万円×九五÷一〇〇)=三万七五〇〇円

(四) 事業専従者控除額 四〇万円

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張の冒頭部分は否認し、原告の本件各年分の所得が事業所得のみであって右事業所得が総所得金額となることは認める。

2  被告の主張1の事実のうち、被告の係官が昭和五九年三月二七日から同年五月一六日までの間に原告宅に臨宅調査に来たこと、及び被告が原告の本件各年分の事業所得の金額を推計の方法により算出したことは認め、その余は否認ないし争う。

3(一)  被告の主張2の冒頭の事実は否認する。

(二)  同2(一)のうち、原告はブルーファイン等のいわゆる親機から繊維加工を受託すると、自己の工場で生産するほか、一部を他業者に外注して生産させ、それらを親機に納入していたこと、同(1)の事実のうち原告の動力使用電力量が一万四六四二キロワットであったこと、同(2)の事実のうち原告の外注工賃の額が六七三万一七一〇円であったことは認め、その余は否認ないし争う。

(三)  同2(二)の推計による一般経費の額は否認する。

(四)  同2(三)及び(四)についてはいずれも認める。

4(一)  被告の主張3の冒頭の事実は否認する。

(二)  同3(一)のうち、(1)の原告の動力使用電力量が一万七四八〇キロワットであったこと、並びに(3)ア及びイの収入があったことは認め、その余は否認ないし争う。

(三)  同3(二)のうち、(1)ないし(7)及び(9)の事実を認めるが、(3)、(5)、(6)及び(9)については被告主張のほかにもある。(8)については、別表5記載の各資産のうち昭和五七年五月に事業の用に供したとされる織機二台の取得価額及び耐用年数は否認し、その余の資産(合計五〇万七二五〇円)については認める。

(四)(1)  同3(三)(1)のうち、アの事実を認め、イについては、別表6の4記載の事実のうち、建物取得の時期、償却期間、償却額及び必要経費算入額は否認し、その余の事実は認める。

(2) 同3(三)(2)の事実は認める。

(3) 同3(三)(3)のうち、ア及びウについては認め、イについては否認する。

(4) 同3(三)(4)の事実は認める。

(五)  同3(四)の事実は認める。

五  被告の主張に対する原告の反論

1  推計の必要性について

被告の係官は、原告の業務や日常生活に対する都合を一切顧慮することなく、何らの予告もなく抜き打ち的に原告宅を訪れたものであり、かつ、係官の訪問は、いつも原告が多忙な業務中であった。原告は、土曜日の午後又は日曜日で予め調査日を指定するのであれば、調査に応じる旨対応していたのである。

したがって、原告が調査に応じなかったという事実はなく、また、原告の事業所得の金額を推計の方法で算出するやむを得ない事情など一切存しない。

2  被告主張の推計方法について

(一) 被告が同業者の住所氏名等を明らかにしないことについて

被告は、自ら推計の根拠として援用した「同業者」につき、その名称、所在地等を明らかにしない。「同業者」の名称、所在地などはその主張の基本的要素であり、それすら明らかにできないのであれば、推計の根拠として主張すること自体、そもそも失当である。被告は、「同業者」というが、推計の根拠として対比させるのに適した業者かどうかは、その所在地や親機の所在地、受託品の種類等及びこれらによって異なる加工単価について比較しなければならないのに、被告がこれらの要素を明らかにしないことは、初めからそのような吟味をすることを拒絶しているものであり、不当である。

(二) 推計の合理性について

一般にいわゆる尾州(尾西市、一宮市等)の業者の加工単価は津島のそれより高いと言われているところ、原告の主要な繊維加工受託先であるブルーファインは、津島市の業者であって、いわゆる尾州の業者ではないのであるから、原告の自己生産分にかかる収入金額を推計するに当たり、加工単価の高い尾州の繊維加工受託業者を比準同業者とすることには合理性がない。

3  昭和五六年分の総所得金額について

原告の主張する昭和五六年分の総所得金額は三三九万六六五七円、その計算内訳は別表2記載の「原告主張」欄のとおりであり、その算出根拠は次のとおりである。

(一) 総収入金額 一四一四万〇一三二円

当期の収入は、ブルーファインからの受託加工賃収入のみである。

(二) 一般経費 三四六万四三三二円

一般経費は次のとおり算出される。なお、本人比率は、昭和五七年分の総収入額に対する一般経費の割合〇・二四五(後記4(二)の一般経費三九五万四六三六円を後記4(一)の総収入金額一六一三万七六二〇円で除した数値)である。

(総収入金額) (本人比率)

一四一四万〇一三二円×〇・二四五=三四六万四三三二円

(三) 特別経費六八七万九一四三円及び事業専従者控除額四〇万円は被告主張のとおりである。

4  昭和五七年分の総所得金額について

原告の主張する昭和五七年分の総所得金額は四六五万八四一五円、その計算内訳は別表2の「原告主張」欄記載のとおりであり、その算出根拠は以下のとおりである。

(一) 総収入金額 一六一三万七六二〇円

(1) 受託加工賃 一五九八万七〇六四円

ブルーファインから一四八九万一六〇六円、鵜飼毛織から八九万五二六六円及び東栄製絨株式会社から二〇万〇一九二円の受託加工賃収入の合計である。

(2) 雑収入 一五万〇五五六円

袴田毛織からの綜絖差シ代金一万二七〇〇円(被告の主張3(一)(3)ア)及びフジヨシからのP・Pコーン売却代金一三万七八五六円(同イ)の合計である。

(二) 一般経費 三九五万四六三六円

一般経費の合計は三九五万四六三六円であり、その内訳は次の(1)ないし(6)のとおりである。

(1) 公租公課、光熱費、損害保険料及び通信費については、被告主張のとおりである。

(2) 接待交際費については、被告主張の二四万〇六一三円のほかに、原告が株式会社大津屋酒店に対して七回にわたり支払った九万九〇五〇円があるから、その合計は三三万九六六三円となる。

(3) 修繕費については、被告主張の二八万四六一〇円のほかに、豊衛工業に対して支払った三万五〇〇〇円、光伸建設に対して支払った三万円合計六万五〇〇〇円があるから、その合計は三四万九六一〇円となる。

(4) 消耗品費については、被告主張の六二万〇七二五円のほか、昭和五七年六月一九日に合資会社前田機械製作所に支払った六万五〇〇〇円、同月二〇日に有限会社加藤栄吉商店に支払った二九万五七〇〇円、同月二一日合資会社丸三製材所に支払った四万九〇〇〇円、同年七月一六日に前田機械製作所に支払った一万八〇〇〇円、同月二四日に株式会社恵電社に支払った五万円、同年八月五日に佐合建材に支払った三万円、同月二八日に加藤栄吉商店に支払った三万七〇〇〇円、同年九月一八日に前田機械製作所に支払った二万九〇〇〇円及び同年一二月二八日に奥井鉄工株式会社に支払った三万円、合計六〇万三七〇〇円があるので、その合計は一二二万四四二五円となる。

(5) 建物以外の減価償却費に関しては、別表5に記載された昭和五七年五月に事業の用に供したとされる織機二台は同年三月に事業の用に供したものでその取得価額は合計六五万円、耐用年数はいずれも三年であり、償却費の額は、右二台合計で一六万二三三七円となる。したがって、建物以外の減価償却費は、争いのない減価償却費の額五〇万七二五〇円に右一六万二三三七円を加えた合計六六万九五八七円となる。

(6) 雑費については、被告主張の一〇万〇九六〇円のほか、昭和五七年六月二一日に大沢運輸株式会社に支払った一二万二〇〇〇円のうち被告の否認する四万八〇〇〇円、同月三〇日に同会社に支払った二万円、同年九月三〇日にヒャンモア中部日本販売に支払った二万三四〇〇円及び同年一二月一七日に義の屋に支払った一八〇〇円の合計九万三二〇〇円があるので、その合計は一九万四一六〇円となる。

(三) 特別経費 七一二万四五六九円

特別経費の合計は七一二万四五六九円であり、その内訳は次の(1)ないし(4)のとおりである。

(1) 減価償却費については、被告の主張3(三)(1)アの昭和四六年七月取得の工場建物に関する一〇〇〇円のほか、同イの昭和五七年八月取得の工場建物について、その取得時期は同年五月、償却期間は八か月であるから、その償却額は四九万一七〇〇円となり、右の合計は四九万二七〇〇円である。

(2) 借入金利子は、被告主張のとおり八万九四四九円である。

(3) 外注工賃の額は、六五〇万四九二〇円である。

(4) 建物除却損の額は、被告主張のとおり三万七五〇〇円である。

(四) 事業専従者控除の額は、被告主張のとおり四〇万円である。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

理由

一  請求原因1の事実(本件各更正に至る経緯等)は当事者間に争いがない。

二  推計の必要性について

被告が原告の本件各年分の事業所得の金額を推計の方法により算出したことは当事者間に争いがないところ、原告は、本件においては推計の必要性がなかったと主張するので、以下、推計の必要性の有無について検討する。

1  証拠(乙一二、一三、証人杉田、原告本人)及び右争いのない事実を総合すると、以下の事実が認められる。

原告は、いわゆる白色申告者であったところ、被告の調査担当係官は、原告の昭和五六年分から昭和五八年分の所得税の申告内容の確認の調査のため、昭和五九年三月二七日、原告宅を訪問したが、原告は不在であり、右係官は原告の妻に昭和五六年から昭和五八年までの三年分の所得税の調査に来たことを告げ、調査に都合のよい日を連絡するよう依頼し、電話番号等のメモを渡して、一宮税務署に戻った。しかし、その後、原告から連絡はなかった。同年四月二七日、被告の係官は、再び、調査のため原告宅を訪問し、外出から帰宅した原告と会うことができた。そして、右係官は、原告に対し、昭和五六年分ないし昭和五八年分の所得税の調査で訪問した旨を告げ、原告の求めに応じて身分証明書を提示したが、原告は、「急に来てもらっても仕事が忙しくて応じられない。現在は、仕事が忙しいから、日曜日か夜だったらいい。」などと言って対応し、その場では調査に協力することはできないという態度を示したので、右係官は、原告に対し、調査に都合のよい日を五月二日に連絡するよう依頼して、同署に戻った。しかし、その後も原告から連絡はなかった。更に、被告の係官は同月一四日に再度原告宅を訪問したが、原告は不在であり、その妻にメモを渡して、調査に都合のよい日を連絡するよう伝言するとともに、既に最初に原告宅を訪問してから一か月半経っているので、今回原告から連絡をもらえなければ調査に協力してもらえないものと判断するということも原告に伝言するよう依頼して、同署に戻った(原告の本件各年分の所得税の調査のため、昭和五九年三月二七日から同年五月一六日までの間に、被告の係官が、原告宅に臨宅調査に行った事実は、当事者間に争いがない。)。しかし、その後も原告からの連絡がなかったため、被告の係官は、約一か月半の間、三回にわたり原告宅を訪問したけれども、調査に応じてもらえず、調査の可能な日についての連絡ももらえなかったこと及び同年四月二七日に原告と会ったときの原告の態度、語調、言葉の内容等から、調査については原告の協力が得られないものと判断した。その後は、被告は、本件各年分の原告の事業所得金額を推計によって算出し、本件各更正処分をした。

2  右認定事実によれば、原告は、被告の調査担当係官が税務調査のため三回にわたり原告宅を訪れたのに、原告が在宅していた第二回目においては、調査について非協力的な態度をとり、また、原告の妻が対応した第一回目及び第三回目においても、係官が妻を介して原告に連絡するよう依頼したのに、事後に調査の日程等について被告の係官と連絡をとらず、そのため、被告において、原告の本件各年分の総所得金額を実額で把握できなかったのであるから、本件各更正時において推計課税の必要性があったものと認めることができ、被告が推計課税の方法により、本件各年分の原告の所得を算定したことには違法はないというべきである。

三  そこで、原告の本件各年分の総所得金額について検討する。原告の本件各年分の所得が事業所得のみであって右事業所得が総所得金額となることは、当事者間に争いがないので、以下、原告の事業所得の金額について検討する。

1  総収入金額

(一)  原告は、繊維加工受託業者であって、ブルーファイン等のいわゆる親機から繊維加工を受託すると、自己の工場で生産するほか、一部を他業者に外注して生産させ、それらを親機に納入していたことは当事者間に争いがない。したがって、総収入金額は、原告の自己生産分にかかる収入金額(後記(二))、外注先生産分にかかる収入金額(後記(三))及びその他の収入金額(後記(四))の合計である。

(二)  自己生産分にかかる収入金額について

被告は、原告の自己生産分にかかる収入金額について、原告の動力使用電力量を基礎として、これに同業者の動力使用電力量一〇キロワット当たりの平均収入金額を乗じることによって、推計の方法により算出しているので、その推計の合理性について検討する。

(1) 証拠(乙一七、乙一八の一、二、証人鳥居)によれば、次の事実を認めることができる。

名古屋国税局長は、一宮税務署長に対し、「「昭和五六年分及び昭和五七年分の繊維受託加工業者の課税事績表」の報告について」と題する通達を発し、昭和六一年九月一〇日を報告提出期限として、一宮税務署管内において繊維受託加工業を営む個人のうち、青色申告の承認を受けて本件各年分の所得税の確定申告をしている者で、別紙1記載の1ないし6の基準のいずれにも該当する者全員の課税事績の報告を求め、一宮税務署長は、これを受けて、名古屋国税局長に対し、本件各年分につき、それぞれ六名の業者をその該当者として、その課税事績を報告した。右報告によれば、昭和五六年分についての同業者の課税事績は、別表3の1記録のとおりであり、これに基づいて動力使用電力量一〇キロワット当たりの平均収入金額を算出すると、同表平均欄記載のとおり、六一七八円となる。同様に、昭和五七年分についての同業者の課税事績は、別表3の2記載のとおりであり、これに基づいて動力使用電力量一〇キロワット当たりの平均収入金額を算出すると、同表平均欄記載のとおり、六三七八円となる。

(2) 右認定事実によれば、原告の自己生産分にかかる収入金額を算出する目的で被告が選定した同業者の選定基準は、業種の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の点において、同業者の類似性を判別する要件として合理的なものであって、右同業者の選定に当たって被告の恣意が介在する余地も認められず、また、右同業者は、いずれも年間を通じて事業を継続する青色申告者であり、その申告が確定しているのであるから、その総収入金額、外注費の額、純工賃収入額等の算出根拠となる資料の正確性も担保されているものというべきである。そして、選定された同業者の数は、本件各年分についてそれぞれ六名であり、同業者の個別性を平均化するに足りる選定件数であると解することができる。

以上によれば、右動力使用電力量一〇キロワット当たりの平均収入金額を適用して原告の自己生産にかかる収入金額を推計することは合理性があると認めることができる。

(3) これに対し、原告は、被告が推計の根拠として用いた比準同業者の住所氏名、親機の所在地、受託品の種類、受託加工単価等を明らかにしないから、推計の根拠として主張すること自体失当であると主張するけれども、少なくとも、比準同業者の住所氏名を被告が秘匿することは守秘義務(所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条一項、二項)によりやむを得ないことというべきであり、被告がこれを明らかにしないとしても、これにより直ちにその主張する推計方法が合理性を欠くということはできない。そして、後記(4)のとおり、本件における推計方法の合理性の判断に当たっては、比準同業者の個別の受託加工単価を比較する必要はないというべきであるから、右同業者の親機の所在地、受託品の種類、受託加工単価等についても、これを明らかにしないことから推計方法が合理性を欠くということはできない。

(4) さらに、原告は、一般にいわゆる尾州(尾西市、一宮市等)の業者の加工単価は津島のそれより高いと言われているところ、原告の主要な繊維加工受託先であるブルーファインは津島市の業者であって、原告の自己生産分にかかる収入金額を推計するに当たり、加工単価の高い尾州の繊維加工受託業者を比準同業者とすることには合理性がないと主張し、本人尋問において、いわゆる尾州(一宮市、尾西市、木曽川町)は、大体、柄物の産地であり、津島はもともとは無地織物の産地であったことから、一般に尾州の方が加工単価が高く、経糸、緯糸の密度等、同じような条件の織物であっても、加工単価が異なるのであり、現に、親機からの注文の内容、単価等が記載された甲一三ないし一六の各一、二には、昭和六三年の加工単価に関して、これに沿う内容の記載がある旨の供述をしている。しかし、加工単価そのものは、加工に手間のかかる程度や織物の数量等、具体的な条件によって異なるものであることは原告本人も自認しているところであり、また、原告も比準同業者と同じ一宮税務署管内で繊維受託加工業を営んでいるので、親機や織物の種類等による同業者間の個別の受託加工単価のばらつきは、抽出された六件の同業者の平均値を求める過程で吸収されると考えられるから、原告の右供述によっても本件における推計の合理性に疑いをさしはさむ事情があるとは認められない。したがって、原告の前記主張は理由がないというべきである。

(5) 前記の推計方法によれば、本件各年分の原告の自己生産分にかかる収入金額は、昭和五六年分について、その動力使用電力量一万四六四二キロワット(この数値は当事者間に争いがない。)に前記(1)の動力使用電力量一〇キロワット当たりの同業者収入金額六一七八円を乗じ、これを一〇で除した値九〇四万五八二七円であり、昭和五七年分について、その動力使用電力量一万七四八〇キロワット(この数値は当事者間に争いがない。)に前記(1)の動力使用電力量一〇キロワット当たりの同業者収入金額六三七八円を乗じ、これを一〇で除した値一一一四万八七四四円である。

(三)  外注先生産分にかかる収入金額について

被告は、原告の総収入金額のうち、外注先生産分にかかる収入金額について、原告が外注先に支払った外注工賃の実額を基礎とし、これに、外注先生産分の利益割合を乗じることによって、推計の方法により算出しているので、その推計の合理性について検討する。

(1) 後記のとおり、原告が外注先に支払った外注工賃の実額は、昭和五六年分について六七三万一七一〇円(後記3(一))、昭和五七年分について六五二万一七三九円(後記3(二)(3))であるところ、推計に用いられた外注先生産分の利益割合については、証拠(乙一三、証人鳥居)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

被告は、原告の昭和五六年中の取引のうち、親機のブルーファインから受託した受託品と外注先へ委託した委託品の品目が合致したものを抽出してそれぞれの金額を合計し、受託品金額の合計額(七二四万八二五五円)を委託品金額の合計額(六一一万二六二四円)で除することにより、外注先生産分の利益割合一一八・六パーセントを算出した。昭和五七年分の外注先生産分の利益割合については、親機である鵜飼毛織との取引のうち、昭和五七年中の取引については受託品と委託品の品目が合致するものが見当たらなかったため、昭和五八年中の鵜飼毛織からの受託品と外注先へ委託した委託品の品目が合致したものを抽出してそれぞれの金額を合計し、受託品の金額(一二四万九一七五円)を委託品の金額(一一六万三八一四円)で除して求めた収入割合一〇七・三パーセントを算出し、これと昭和五六年分のブルーファインとの取引の利益割合一一八・六パーセントを別表4記載のとおりブルーファイン及び鵜飼毛織との取引金額に応じて加重平均し、一一七・九パーセントを算出した。

(2) 右推計は、昭和五六年分に関しては、原告が外注先に支払った外注工賃の実額及び実際に原告が受託した受託品と委託品との品目が一致した取引についての利益割合を基礎とするものであり、昭和五七年分についても、その基礎とされた利益割合は昭和五六年分及び昭和五八年分の数値であるが、これをもとに、昭和五七年の取引先及び取引割合に応じて加重平均されたものを利益割合として用いているものであり、いずれも原告の外注先生産分の収入金額を推計するのに合理性がある推計方法であるということができる。

(3) したがって、外注先生産分にかかる収入金額は、昭和五六年分については七九八万三八〇八円(外注工賃六七三万一七一〇円に一・一八六を乗じたもの)、昭和五七年分については七六八万九一三〇円(外注工賃六五二万一七三九円に一・一七九を乗じたもの)と認めることができる。

(四)  その他の収入

(1) 昭和五六年分

証拠(乙二、原告本人)によれば、繊維受託加工業の加工工程の中に「綜絖差シ」という経糸を下準備の段階で織機械にかける前の準備工程があり、外注先に仕事を下請に出す場合には、通常、これは下請の工程の一部として行われること、しかし、何らかの事情があるときには原告が下請のためにその工程を行うことがあること、そして、原告がこれを行った場合には、外注先においてその工賃を原告に支払うこと、昭和五六年に関しては、原告は、袴田毛織こと袴田喜久治から、五月一〇日に二万円、六月一〇日に一万一〇〇〇円、一〇月一八日に一万〇五〇〇円、合計四万一五〇〇円の支払を受けていること、以上のとおり認められる。

したがって、右四万一五〇〇円は、前記(二)及び(三)の推計に含まれない総収入金額の一部と解すべきである。

(2) 昭和五七年分

原告が、袴田毛織から綜絖差シ代金として一万二七〇〇円及び株式会社フジヨシからP・Pコーン売却代金として一三万七八五六円を得ていたことは、当事者間に争いがなく、さらに、証拠(乙一一の二、三、原告本人)によれば、原告は、昭和五七年四月二八日及び同年五月六日に、ハシマ機料株式会社からのスクラップ代金として合計六万五〇〇〇円を得ていたことが認められる。右の合計二一万五五五六円は、前記(二)及び(三)の推計に含まれない総収入金額の一部と解すべきである。

(五)  原告の実額主張について

ところで、原告は、本件各年分の総収入金額の実額を主張するので、以下、原告が提出した証拠等に基づいて原告の総収入金額を実額で把握することができるか否かについて検討する。

(1) 原告は、昭和五六年分の総収入金額は、親機であるブルーファインからの受託加工賃収入一四一四万〇一三二円のみであると主張し、これに沿う証拠として原告名義の十六銀行尾西支店の銀行口座通帳(甲一の一、二)を提出し、また、昭和五七年分の総収入金額としては、受託加工賃収入一五九八万七〇六四円(ブルーファインから一四八九万一六〇六円、鵜飼毛織から八九万五二六六円及び東栄製絨から二〇万〇一九二円)並びに雑収入として一五万〇五五六円(袴田毛織からの綜絖差シ代金一万二七〇〇円及び株式会社フジヨシからのP・Pコーン売却代金一三万七八五六円)、合計一六一三万七六二〇円であると主張し、これに沿う証拠として、鵜飼毛織の加工賃明細書(甲三の一ないし一一)、東栄製絨の支払工賃明細書(甲四の一、二)、原告のブルーファインに対する請求書(甲一二の一ないし一五)を提出している。

(2) ところで、証拠(乙三の一ないし三、乙五、七、八の一及び二、乙一〇、一一の一、乙一四ないし一六、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次のような事実が認められる。

ア 原告は、本人尋問において、十六銀行尾西支店及び一宮信用金庫起支店と取引していたほか栗山茂(仮名)名義で尾西信用金庫本店と取引していたが、他の金融機関とは取引していなかったと供述していたが、被告の調査により、尾西市農業協同組合にも普通預金口座を有し、売上先である東栄製絨が昭和五七年四月三〇日に振出した小切手六万二三三六円を同組合において取り立てて入金していたことが判明した。

イ 原告は、当初、本人尋問において、尾西信用金庫本店の栗山茂名義の口座は株の取引のため開設したものであると説明していたが、右口座には、ハシマ機料へ整経機を売却して受け取った三八万円の小切手が昭和五七年一一月二二日に、また、フジヨシにP・Pコーンを売却して受け取った一三万七八五六円の小切手(前記(1)のとおり、原告が昭和五七年の収入の一部であると主張しているもの)が昭和五八年九月一二日にそれぞれ入金されているほか、昭和五六年八月八日に現金六〇万円、昭和五七年一一月二九日に現金一〇六万円及び昭和五八年七月二七日に現金二五〇万円の入金がされている事実が明らかにされ、右口座を株の取引以外にも利用していたことを認めるに至った。

ウ 原告は、当初、本人尋問において、東栄製絨からの小切手は十六銀行尾西支店か、一宮信用金庫のいずれかで取り立てたと説明し、その後、住友銀行津島支店で現金化し、銀行へ預けずに現金として保管したと説明を変更したが、被告の調査の結果、原告は、東栄製絨が昭和五七年三月三一日に振出した一三万七八五六円の小切手を東海銀行尾西支店において取り立て、同支店の小池敏男名義の普通預金口座に入金していたという事実が判明した。

エ 原告の収入に関する書証としては、前記(1)記載の総合口座通帳、加工費明細書等が提出されているのみであって、現金出納簿等の帳簿類はもとより、親機から小切手等を受け取った際に発行する領収書の控え等も提出されていない。

オ 原告は、異議申立てに対する被告の調査において外注先の数を合計五件であると主張し、さらに、審査請求においては外注先を六件であると主張していたのに対し、本訴においては外注先は三件であると主張している。

(3) 右の認定事実によれば、原告は、その総収入金額の実額を算定するための資料として信頼の置ける金銭出納簿等の帳簿類はもとより、取引先に対して発行した領収書の控え等の原始記録も証拠として提出していないばかりか、取引のある金融機関の一部を明らかにしようとせず、あるいは仮名の預金口座に事業にかかる売却代金を入金し、さらには外注先についても主張を変遷させているということができ、これらの事実を総合すると、原告が主張していない外注先が存在し、あるいは原告主張の収入以外にも収入が存在するのではないかとの疑念を払拭することができないというべきであり、原告がその収入金額が立証するために提出している前記(1)記載の証拠によっては、いまだ原告の総収入金額が明らかになったものと認めることはできず、結局、原告主張の収入金額が収入の実額であると認定することはできないというべきである。

(六)  したがって、前記(二)ないし(四)により、原告の総収入金額は、昭和五六年分について一七〇七万一一三五円、昭和五七年分について一九〇五万三四三〇円と認めることができる。

2  一般経費について

一般経費については、昭和五七年分に関しては原被告とも実額を主張し、昭和五六年分に関しては原被告とも昭和五七年分の総収入金額に対する一般経費の割合(本人比率)によって推計しているので、まず、昭和五七年分について判断する。

(一)  昭和五七年分

昭和五七年分の一般経費の合計は、三四〇万九〇四九円と認定することができる。その内訳及び計算は、次の(1)ないし(6)のとおりである。

(1) 当事者間に争いのない項目

公租公課の金額が四二万二一八〇円であること、光熱費の金額六一万二三九一円であること、損害保険料の金額が七万六三六〇円であること、通信費の金額六万六二六〇円であることについては、当事者間に争いがない。

(2) 接待交際費

接待交際費が二四万〇六一三円を下らないことは、当事者間に争いがない。原告は、右のほかに、大津屋酒店に対して支払った合計九万九〇五〇円が接待交際費であると主張し、領収書(甲五の二、九、一一、一六、二〇、二四及び二六)を提出するけれども、証拠(乙四の一ないし五、乙五、一二、一三、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、これらの支払については、異議申立て及び審査請求の段階においては接待交際費として主張されていなかったこと、その取引の内容はビール及び溜り醤油の買入れを主としたものであること、並びに原告本人も本訴において提出した領収書の中には家事用のものが含まれていることを自認していることが認められ、これによれば、右九万九〇五〇円の支払は家事関連費の支払であって接待費としての支払には当たらないと認めるのが相当である。

したがって、接待交際費の金額は二四万〇六一三円と認められる。

(3) 修繕費

修繕費が二八万四六一〇円を下らないことは、当事者間に争いがない。そして、証拠(甲六の一七、二八、原告本人)によれば、原告は、修繕費として、右のほかに、昭和五七年五月二九日、豊衛工業に対し三万五〇〇〇円(給水管配管工事費)を、同年一二月一五日、光伸建設に対し三万円を支払ったことが認められる。したがって、修繕費の額は、当事者間に争いがない二八万四六一〇円に右支払額を加えた三四万九六一〇円と認定するのが相当である。

(4) 消耗品費

消耗品費が六二万〇七二五円を下らないことは、当事者間に争いがない。そして、証拠(甲七の一八、二〇、二三、二八、二九、三一、三六、四九、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、右のほかに消耗品の購入代金として、原告の主張するもののうち、昭和五七年六月二〇日に加藤栄吉商店に支払った分を除くその余の分の合計三〇万八〇〇〇円を支払った事実が認められるから、消耗品費の合計は九二万八七二五円と認めることができる。

なお、右加藤栄吉商店への支払分については、領収書(甲七の一九)が提出されており、これには昭和五七年六月二〇日加藤栄吉商店に「半ム芯シャトル」の代金として二九万五七〇〇円を支払った旨の記載があるが、右領収書の宛先は「上様」と記載され、日付は鉛筆で書かれているのであり、他の領収書と比較しても金額が小さくないこのような領収書が、確定申告、異議申立て及び審査請求のいずれの段階においても提出されていなかったという点からすると、右領収書は消耗品費の支払を裏付ける証拠としては採用しがたいものというべきであり、これによって消耗品費の合計が九二万八七二五円であるとする右認定を覆すことはできない。

(5) 建物以外の減価償却費

建物以外の減価償却費については、別表5記載の各資産のうち、昭和五七年五月に事業の用に供したとされる織機二台を除くその余の資産(合計五〇万七二五〇円)については、当事者間に争いがない。

原告は、右織機二台については、取得価額は六五万円であると主張し、かつ、事業の用に供した時期及び耐用年数を争っているが、証拠(乙六)及び弁論の全趣旨によれば、右織機二台の取得価額は、右織機二台を購入した際に運送代金として支払われた四万八〇〇〇円(後記(6)参照)を減価償却資産の購入代金として加算すべきであり、そうすると、その取得価額は合計で六九万八〇〇〇円となること、並びに事業の用に供した時期及び耐用年数、償却期間については別表5記載のとおりであることが認められる。そうすると、右織機二台について必要経費算入の減価償却額は別表5記載のとおり五万六一〇〇円及び四万八六〇〇円、合計一〇万四七〇〇円であると認めることができ、したがって、建物以外の減価償却費の合計は六一万一九五〇円となる。

(6) 雑費

雑費が一〇万〇九六〇円を下らないことは、当事者間に争いがない。

原告は、右のほかにも大沢運輸等に支払った四件九万三二〇〇円がある旨主張し、領収書として甲九の三ないし五を提出し、乙五を援用しており、右証拠及び甲五の三〇によれば、原告がその主張するとおりに(ただし、「義の屋」は「美濃屋万楽」の誤りであると認められる。)金員を支払ったことが認められる。しかし、右のうち、昭和五七年六月三〇日に大沢運輸に支払った二万円及び同年九月三〇日にヒャンモア中部日本販売に支払った二万三四〇〇円については、本訴において初めて雑費として支払ったとの主張がされたものであること、右領収書の記載からは何のために支払われた金員であるかは不明であること等の事情によれば、右支払はいずれも原告の事業にかかる経費として支払われたものではないというべきであり、他にこれを覆すに足りる証拠はない。また、証拠(乙六)によれば、同年六月二一日に大沢運輸に支払った一二万二〇〇〇円のうちの四万八〇〇〇円は、原告が同年五月四日にW織機二台を購入した際の運送代金として支払ったものであると認められるので、減価償却資産の購入代金に加算すべきものであって(所得税法施行令一二六条一項一号イ)、雑費には当たらない。さらに、弁論の全趣旨によれば、原告は、同年一二月一七日に美濃屋万楽に支払った一八〇〇円を接待交際費に計上していることが認められるので、これは雑費には当たらない。

したがって、雑費は一〇万〇九六〇円である。

(7) 合計

右の(1)ないし(6)の合計は、三四〇万九〇四九円となる。

(二)  昭和五六年分

被告は原告の昭和五六年分の一般経費について、原告の昭和五七年の総収入金額に対する一般経費の比率(本人比率)に基づいて推計しているのであるが、右推計方法についてその合理性を疑わせる事情は窺われず、合理的な推計方法であるといい得るところ、本人比率は、原告の昭和五七年分の総収入金額(前記1(六)のとおり一九〇五万三四三〇円)に対する一般経費の額(前記(一)のとおり三四〇万九〇四九円)の割合〇・一七八九となるから、これを、前記1(六)の昭和五六年分の総収入金額一七〇七万一一三五円に乗じて得られる三〇五万四〇二六円が昭和五六年分の所得に関する一般経費の額であると認めることができる。

3  特別経費について

(一)  昭和五六年分

昭和五六年分の特別経費が被告の主張2(三)(1)(減価償却費二万二五三八円)、同(2)(借入金利子一二万四八九五円)及び同(3)(外注工賃六七三万一七一〇円)のとおりであることは当事者間に争いがなく、したがって、特別経費の合計は六八七万九一四三円である。

(二)  昭和五七年分

昭和五七年分の特別経費については、以下のとおりであるから、六九五万七〇〇〇円と認めることができる。

(1) 減価償却費

被告の主張する減価償却費のうち、ア(昭和四六年七月取得の工場建物)の一〇〇〇円については当事者間に争いがなく、イ(昭和五七年八月取得の工場建物)については、別表6の4記載の事実のうち建物取得の時期、償却期間、償却額及び必要経費算入額を除くその余の事実については当事者間に争いがない。

そこで検討するに、証拠(乙一、一九)によれば、固定資産課税台帳及び建物登記簿には、右工場建物は昭和五七年八月二五日に建築された旨記載されていることが認められ、右事実によれば、当該工場建物の取得の時期は同年八月であったと認めるのが相当である。原告本人は、同年一月から四月末にかけて工場建物を新築し、四月末ころには建物が完成し、五月からは、契約電気量を変更して、新しい工場の稼働を始めた旨供述しており、また、証拠(甲一〇の一ないし四)によれば、同年五月に契約電気容量が変更されたことが認められるけれども、これらをもってしても、いまだ右認定を覆すには足りないというべきである。

したがって、被告の主張するイの工場建物に関する減価償却費は別表6の4記載のとおり三〇万七三一二円と認めることができ、減価償却費の合計は三〇万八三一二円となる。

(2) 借入金利子

借入金利子の額が八万九四四九円であることは当事者間に争いがない。

(3) 外注工賃

被告の主張する外注工賃(被告の主張3(三)(3))のうち、ア(渡辺毛織にかかる四一九万三九八〇円)及びウ(茶鉄毛織合資会社にかかる六二万〇六二九円)については、当事者間に争いがない。イの袴田毛織にかかる外注工賃の額については、証拠(乙二)によれば、一七〇万七一三〇円であることが認められる。したがって、右の合計六五二万一七三九円が外注工賃である。

(4) 建物除却損

建物除却損の額が三万七五〇〇円であることは当事者間に争いがない。

(5) したがって、昭和五七年分の特別経費の額は、右(1)ないし(4)の合計六九五万七〇〇〇円である。

4  事業専従者控除

事業専従者控除額が、本件各年分について、それぞれ四〇万円であることは当事者間に争いがない。

5  本件各年分の事業所得金額の合計

右1ないし4のとおりであるから、原告の事業所得金額は、昭和五六年分について六七三万七九六六円、昭和五七年分については八二八万七三八一円と認めることができる。

四  以上によれば、昭和五六年分の総所得金額を六六三万五三三八円、昭和五七年分の総所得金額を六一七万四五一七円としてされた本件各更正は、原告の本件各年分の総所得金額の範囲内でされたものであるから、適法な処分というべきである。

五  よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀬戸正義 裁判官 杉原則彦 裁判官 後藤博)

別紙1

同業者の抽出基準

1 主として紳士服(従として婦人服)の繊維受託加工業である者

2 青色申告書を提出している個人事業者である者

ただし、次の各号に該当する者は除く

ア 年の中途において、開廃業、休業又は業態変更をした者

イ 更正又は決定処分が行われた者のうち、国税通則法又は行訴法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者並びに不服申立て又は訴訟中の者

3 住所を一宮税務署管内に有している者

4 動力使用電気料の額が次のア又はイの範囲(原告の動力使用電気料の半分ないし二倍)内にある者

ア 昭和五六年分は一七万八七二八円から七一万四九一二円までの者

イ 昭和五七年分は二六万一二五六円から一〇四万五〇二六円までの者

5 昭和五六年分及び五七年分の所有機械台数が両年とも二台から八台までの者

6 右4に該当する者で、動力使用電気量の数量が次のア又はイの範囲(原告の動力使用電気量の半分ないし二倍)内にある者

ア 昭和五六年分は七三二一キロワット時から二万九二八四キロワット時までの者

イ 昭和五七年分は八七四〇キロワット時から三万四九六〇キロワット時までの者

別表1

1 本件課税処分等の経緯(昭和56年分)

<省略>

2 本件課税処分等の経緯(昭和57年分)

<省略>

別表2

<省略>

別表3

1 繊維受託加工業の昭和五六年分同業者収入金額

<省略>

2 繊維受託加工業の五七年分同業者収入金額

<省略>

別表4

加重平均割合算定表

<省略>

別表5

建物以外の減価償却費

<省略>

別表6

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

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